夏季の高温環境下でのユニック車の運用は、機械への負担増大や作業効率の低下、そして何より作業員の安全リスクという複合的な課題をもたらします。気温が30℃を超える日本の夏において、クレーン付きトラックは太陽光による直接的な熱と、エンジンや油圧システムからの発熱という二重の熱負荷にさらされます。適切な対策を講じなければ、機器の故障リスクが高まるだけでなく、重大な事故につながる可能性もあります。
当社・堀野モータースでは長年にわたり数多くのユニック車を取り扱ってきた経験から、夏季特有の問題とその対策について豊富な知見を蓄積してきました。本記事では、ユニック車を夏の高温下で安全かつ効率的に運用するためのノウハウを詳しく解説します。
ユニック車への熱の影響
機械的影響
夏の高温はユニック車の各部位に様々な悪影響を及ぼします。特に注意すべき点は以下の通りです:
- 油圧システムへの影響:ユニック車のクレーン操作は油圧システムに依存しています。高温下では作動油の粘度が低下し、効率が落ちるだけでなく、シール部分からの漏れリスクも高まります。油温が90℃を超えると作動油の劣化が加速し、システム全体の寿命を縮める原因となります。
- バッテリーへの負担:高温環境はバッテリーの性能を著しく低下させます。35℃を超える環境では、バッテリー液の蒸発が早まり、寿命が通常の50〜70%に短縮されることもあります。特にラジコン操作機能を搭載したユニック車では、電力系統の安定性が作業の安全性に直結します。
- ブレーキ系統:高温によりブレーキ液の沸点が下がり、ブレーキの効きが悪くなる「ベーパーロック現象」が発生するリスクが高まります。重量物を扱うユニック車では、制動性能の低下は重大事故につながりかねません。
- タイヤへの影響:路面温度が60℃を超える真夏日には、タイヤの内圧が上昇し、バースト(破裂)のリスクが高まります。特に重い荷物を積載した状態では、タイヤへの負担がさらに増大します。
作業効率への影響
機械的な影響に加え、高温は作業効率にも大きく影響します:
- 操作精度の低下:熱による集中力の低下で、クレーン操作の精度が落ちます。特に精密な位置決めが必要な作業では影響が顕著です。
- 作業時間の延長:熱中症予防のための頻繁な休憩が必要となり、結果として作業完了までの時間が延びます。
- 燃費の悪化:エアコンの使用やアイドリング時間の増加により、燃料消費量が増加します。当社の調査では、真夏の燃費は適温期と比較して約15〜20%悪化するケースが見られます。
運転手・作業員の熱中症対策
ユニック車の安全運用において最も重要なのは、操作する人の安全確保です:
- 水分・塩分の定期的な補給:30分に一度を目安に水分補給を行いましょう。冷たい水よりも常温の水の方が吸収が良いとされています。また、塩分タブレットや経口補水液の常備をお勧めします。
- 適切な休憩:無理な連続作業は避け、1時間に10分程度の休憩を日陰や冷房の効いた場所で取ることをルール化しましょう。
- 適切な作業服:通気性の良い作業服と、首元を保護する冷却タオルの活用が効果的です。最近では冷却機能付きの作業ベストなども市販されています。
- 相互監視体制の確立:可能な限り複数人での作業を心がけ、互いの体調変化を注意深く観察する習慣をつけましょう。熱中症の初期症状(めまい、頭痛、吐き気)を見逃さないことが重要です。
車両本体の熱対策
エンジン・油圧システム対策
- 定期的な冷却水チェック:夏場は週1回程度の冷却水量チェックを習慣化しましょう。冷却水は常に規定量の80%以上を維持することが重要です。
- ラジエーターの清掃:虫や埃で目詰まりしたラジエーターは冷却効率が大幅に低下します。エアガンや低圧洗浄機による定期的な清掃を行いましょう。
- オイルクーラーの点検:油圧システムを冷却するオイルクーラーの性能低下は、作動油の劣化を加速させます。フィンの変形や詰まりがないか定期的に確認しましょう。
- 作動油の温度管理:油温計がついている場合は、常に温度を監視し、80℃を超えないよう注意しましょう。高温時は作業を一時中断し、温度が下がるまで待つことが機器の寿命を延ばします。
クレーン部分の対策
- 日よけカバーの活用:使用していない時間帯は、操作部やシリンダー部に反射性の高い日よけカバーをかけることで、直射日光による温度上昇を抑制できます。
- 早朝・夕方の活用:特に長時間の重作業は、気温の低い早朝や夕方に計画しましょう。日中の最も暑い時間帯(13時〜15時)は可能な限り避けることをお勧めします。
- 潤滑油の適切な選択:夏季専用の高温対応潤滑油への切り替えを検討しましょう。一般的な潤滑油より粘度低下が少なく、高温での性能維持に優れています。
効率的な夏季作業計画の立て方
暑さ対策と作業効率の両立には、計画的なアプローチが必要です:
- 時間帯の最適化:
- 早朝(5時〜8時):重量物の積み下ろしなど集中力を要する作業
- 午前(8時〜11時):一般的な荷役作業
- 正午〜午後(12時〜15時):軽作業または車内作業を中心に
- 夕方(15時以降):再び荷役作業の実施
- 作業の優先順位付け:
- 集中力や精密操作が必要な作業→朝の涼しい時間帯に
- 体力を要する作業→気温上昇前に
- 比較的簡単な作業→日中の暑い時間帯に
- 書類作業や点検など→最も暑い時間帯に車内で実施
- 現場環境の整備:
- 可能であれば移動式テントや日よけを設置
- 冷却ミスト発生装置の活用(最近は比較的安価な製品も増えています)
- 保冷ボックスを車両に常備し、冷たい飲料と濡れタオルを確保
- 人員配置の工夫:
- 作業者のローテーションを頻繁に行い、一人あたりの連続作業時間を短縮
- 熱に弱い作業者(高齢者や持病のある方)は特に配慮が必要
夏季メンテナンスのポイント
夏を乗り切るためには、以下のメンテナンスが効果的です:
- 空調システムの点検:
- エアコンガスの量チェックと必要に応じた補充
- エアフィルターの清掃または交換(目詰まりすると冷房効率が大幅に低下します)
- 送風口や内部ダクトの清掃(カビ防止にもなります)
- バッテリー管理:
- 電解液量のチェックと補充
- 端子の腐食除去と保護グリスの塗布
- 充電状態の確認(夏場は自然放電が早まります)
- 油圧システムの点検:
- 作動油の色調チェック(黒ずみや濁りは劣化のサイン)
- 油圧ホースの亀裂や膨らみのチェック(高温で劣化が加速します)
- 油圧シリンダーからの油漏れ点検(高温でシールの劣化が進みます)
- 冷却システムの強化:
- サーモスタットの動作確認
- 冷却ファンベルトの張り具合確認(緩みや亀裂がないか)
- 必要に応じて高性能ラジエターキャップへの交換(耐圧性向上)
夏季ユニック車運用チェックリスト
日次チェック
- 冷却水量の確認
- エンジンオイル量の確認
- 各部からの油漏れ確認
- タイヤ空気圧チェック(朝の涼しい時間に測定)
- バッテリー液量チェック
- ワイヤーロープの状態確認(高温で劣化が進みやすい)
- 作業前の水分・塩分補給準備
週次チェック
- ラジエーターの清掃
- エアコンフィルターの清掃
- 作動油の状態確認
- 油圧ホースの状態確認(特にクレーン部分)
- バッテリー端子の腐食チェック
- 冷却ファンの動作確認
月次チェック
- オイルクーラーフィンの清掃
- 作動油の交換検討(使用頻度が高い場合)
- ブレーキ液量と状態の確認
- エアコンガス量の確認
- シリンダーシールの点検
- 各部潤滑油の補充
まとめ
夏のユニック車運用は、機械への配慮と人への配慮の両面が重要です。適切な熱対策と計画的な作業スケジュールにより、機械の故障リスクを低減し、作業員の安全を確保しつつ、作業効率を最大化することが可能です。
特に重要なのは「無理をしない」という基本姿勢です。無理な作業計画や機械への過負荷は、短期的には作業を早く終わらせることができたとしても、長期的には機械の寿命を縮め、作業員の健康リスクを高め、結果としてコスト増大につながります。
夏季の高温環境は厳しいものですが、本記事で紹介した対策を実践することで、ユニック車の安全かつ効率的な運用が可能となります。最新のユニック車は各種の保護機能を備えていますが、基本的なメンテナンスと運用上の注意を怠らないことが、機械を長く、安全に使い続けるための鍵となります。
堀野モータースでは、季節に応じたユニック車のメンテナンスや効率的な運用方法について、いつでもご相談を承っております。特に夏季の作業にお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。長年の経験と専門知識を活かした最適なアドバイスをご提供いたします。
※本記事の内容は2025年7月時点の情報に基づいています。最新の製品仕様や安全基準については、各メーカーの公式情報をご確認ください。